こんなはずじゃなかった。
「うるせんだよ。わかってんだよ」「何?その口のききかた!」言うなり娘に手が出ていました。
「もっとたたけよ!」激しい剣幕で食ってかかります。「そんなに憎い?私が嫌い?私が死ねばすっきりするんでしょう!」
公立高校に受かって欲しい、その一念で顔を見れば「早く勉強をしなさい」。
自分を抑えきれないのです。「何でわからないの?あんたのためを思ってなのに!」
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主人はちっとも頼りになりません。思いあまって、知人に心情を打ち明けると、「どうして信じてあげないの。自分の子じゃないの‥‥」
その言葉を聞きながら、母の姿がよみがえってきたのです。
娘を妊娠して間もない頃、嫁ぎ先での暮らしになじめず、つらくて、心細くて、でもじっと胸におさめて、毎日耐えていた遠い日のできごと---
ある日突然、実家から母が来て「ちゃんとたべなきゃ」、言葉少なく、ウナギの蒲焼をそっと手渡してくれたのです。
勝手に生んだくせに‥‥少しも振り向いてくれなかった母をずっと恨みに思ってた。でも、私の身を案じてくれた。わかってくれてたんです。
《生まれてきてよかった》あの時、そう思わせてくれた母――
我に返りました。娘の心を少しも覗こうとしなかった。
”お前のため”と言いながら、世間体や身勝手な思いで、追い詰めていた。「私なんか、いらないんでしょ!」娘はそう叫んでいたのです。
「お母さんの思いばっかりお前に押し付けていた。ごめんね」言ったとたん、娘は声をあげて泣き出しました。
「本当はお母さんが大好きなんだよ、大好きなの‥‥」
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子どもの幸せを願わない親なんて、いません。「勉強しなさい」相変わらず言っています。
「わかってるって」とにっこり応える娘。それにしても、「高望みするな、それは、お前の子」前からそう言ってた主人。
私のこころ、本当は補ってくれてたんですね。
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