私の好きな映画の中に「フーテンの寅さん」がありますが、それは寅さん(すでに亡くなられた渥美清さん)を囲む、柴又のだんご屋“とらや”の人々のやさしさ、暖かさ、人の好さがたまらなく好きです。
その中に,寅さんの妹「さくら」の息子『みつお』が中学校から帰ってきて,ひどくしょげている場面があります。『みつお』の父親『ひろし』が問います。場所は,
“とらや”の居間。
ひろし「学校で何かあったのか?」
みつお「お父さんは中学校の頃,どんな職業につきたいと考えていた?」
ひろし「お父さんは弁護士になりたいとおもっていたけど、高校に入ってから成績が伸びず,その次にテストドライバーとか,カーショップのオーナーだとか、カッコいいことばかり考えて,結局は職業を転々として,今の印刷の仕事をするようになったんだよ。でも、どうしてそんなこと聞くにのか?」
みつお「今日HRの時間、先生に将来何になりたいのか?と聞かれたから,音楽家になりたいと、言ったんだ。すると先生、バカにしたみたいに笑って、夢みたいなことを考えずに、もっと足もとを見ろって言うんだ。」
さくら「足もとって?」
みつお「もっと勉強しろって、いうことだよ」
さくら「夢じゃないわ。ちっともおかしくないわ。我が家に1人くらい音楽家がいたって、いいじゃない、いいわね--」
ひろし「でも、みつおは本当に音楽家になりたいのか。もしかして、苦手な理科や数学から逃げ出そうとしているのではないのか。勉強せずにすまそうとする、逃げじゃないのか?違うか」
とらやのおじいさん「いいじゃないか。好きなことをやらせておけば。」
おばあさん「そうだよ。個性的に育てなきゃね」
ひろし「好きなことをやってりゃ個性的って、いうわけじゃないですよ。きらいなことにも、一生懸命取り組んで悩んだり、苦しんだりしながら、子ども自身が個性を作り上げていくことなんですよ。だいじなことは、その過程をどのくらい見守ってやれるかと言うことなんですよ。個性的っていう言葉をそんなに簡単に使わんで下さいよ。誰だってそうやって、育ってきたんですよ。」
おばあさん「寅さんもかい?」
じいさん「ありゃ特別だよ。ありゃ、デ・タ・ラ・メだよ」
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